大判例

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高松高等裁判所 平成5年(ネ)96号 判決

控訴人

有限会社ちろりん村

右代表者代表取締役

大西光明

右訴訟代理人弁護士

渡辺光夫

重哲郎

被控訴人

株式会社瀬戸内海放送

右代表者代表取締役

加藤芳宏

右訴訟代理人弁護士

近石勤

桑城秀樹

井上昭雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  (主位的請求)

被控訴人は、本件請求を認容する判決確定の日から毎月六回、午前一一時から一二時の間に、それぞれ一五秒間、テレビ画面に原判決添付別紙一のテロップを映し、同別紙二記載のアナウンスをするという内容の控訴人のスポットコマーシャルを放映せよ。

(予備的請求)

被控訴人は、本件請求を認容する判決確定の日から三か月間、毎月六回、午前一一時から一二時の間に、それぞれ一五秒間、テレビ画面に原判決添付別紙一のテロップを映し、同別紙二記載のアナウンスをするという内容の控訴人のスポットコマーシャルを放映せよ。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  (二)項につき仮執行宣言。

2  被控訴人

主文同旨。

二  当事者の主張

次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏四行目の「末日ころ」を「末ころ」と改め、同三枚目表三行目の「以上」を削除し、同四枚目表九行目の「行なわない」を「行わない」と、同五枚目裏六行目の「編成」を「放送番組編集」と改め、同九行目の「政見放送」の次に「、経歴放送」を加え、同六枚目表九行目、一〇行目の「期日」をいずれも「期間」と、同七枚目表五行目の「民放連基準」を「放送基準」と改め、同六行目の「関係なく」の次に「、同基準第八章表現上の配慮四六項「社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、できるだけ多くの角度から論じなければならない。」及び第一四章広告の取り扱い九八項「係争中の問題に関する一方的主張または通信・通知のたぐいは取り扱わない。」に抵触して、」を、同八枚目表三行目の「公正原則」の後に「・放送法三条の二第四号」を加え、同枚目裏五行目の「ことことを」を「ことを」と、同九枚目表二行目の「行なう」を「行う」と、同一〇枚目裏一行目の「商業放送」を「商業放送局」と改め、同五行目の「日本民間放送連盟の」を削除し、同九行目の「放送」の前に「放送法三条の二第四号が明らかにしている」を、同末行目の「公正原則」の次に「(放送法三条の二第四号)」を、同一一枚目表三行目の「安全性」の次に「及び必要性」を、同四行目の「原発反対派」の前に「見解の対立している」を加える。

2  当審での主張

(一)  控訴人の公序良俗違反の主張(再抗弁2)の補充

本件放送素材を全体として見れば、控訴人の販売商品・商行為の宣伝及びその事業姿勢の広告をする商業広告に該当するものであり、被控訴人主張のような意見広告ではない。また、本件テロップの「原発バイバイ」の部分だけを見ても、原子力発電の安全性には全く触れておらず、その不必要性を「さよなら」の文言により極めてひびきの柔らかく、ささやかな表現にしているにすぎないから、放送基準に抵触しない。

本件テロップは、原子力発電の安全性・必要性を訴える多数の電力会社のコマーシャルよりも放送基準に抵触する可能性は低く、それにもかかわらず、被控訴人がその放映を拒絶したのは、本件テロップが同基準に抵触したためではなく、多額のコマーシャル料を支払う電力会社に配慮したためである。

(二)  被控訴人の認否

否認ないし争う。被控訴人は、本件テロップが放送基準四六項及び九八項に抵触していたので、その放映を拒絶したものである。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、原判決の結論を相当と判断する。その理由は、次に付加、訂正、削除するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補訂について

原判決一二枚目裏三、四行目の「等を行なうとともに、」を「並びに」と、同四行目の「行なうことを」を「主要な」と、同七行目の「代理店契約」を「代理店契約の締結」と改め、同一三枚目表九行目末尾の「な」を削除し、同末行目の「従来、」の次に「広告主に対して、」を加え、同枚目裏一行目の「6」を「1」と、同六行目の「修正を指示」を「改稿を要請」と、同一四枚目表一一行目の「行なっていた」を「行っており、このような取扱いは当時他の放送局でも同様であった」と、同一五枚目表五行目の「行なう」を「行う」と改め、同一六枚目表末行目の「中西加代子」の次に「(以下「中西」という)」を加え、同枚目裏一行目の「CM台帳に記入して保管し、」を削除し、同三行目の「担当者」を「中西」に改め、同四行目の「デスク」の前に「CM台帳に記入して」を加え、同五行目の「一八日」を「同月一八日」と、同一〇行目の「放送基準に」を「右表示は社会の意見が対立している原子力発電所の安全性・必要性の問題につき、同安全性・必要性を断定的に否定する文言であるから、放送基準第八章表現上の配慮四六項「社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、できるだけ多くの角度から論じなければならない。」及び第一四章広告の取り扱い九八項「係争中の問題に関する一方的主張又は通信・通知のたぐいは取り扱わない。」に」と改め、同一七枚目表三行目の「ウォーク」の前に「同月二七日、」を、同七行目の「ウォークは、」の次に「翌二八日」を加え、同末行目の「要求」を「要請」と改め、同一八枚目表二行目の「原告及びウォーク並びに被告の間」を「控訴人とウォーク間及びウォークと被控訴人間」と改め、同行目の「放映契約が」の次に「いずれも」を、同三行目の「主張」の次に「し、被控訴人は、同契約がいずれも三か月単位で更新されるものであると主張」を加え、同一九枚目表三行目の「放送素材が正規の経路で担当部署に」を「本件放送素材が通常の正規の経路により広告代理店ウォークの担当者から被控訴人の担当者に」と、同枚目裏二行目の「誤信した錯誤」を「誤信したことについて要素の錯誤」と、同二〇枚目表五行目の「当該放映が履行不能かどうかは」を「本件契約においては、その内容に照らして、当該放映が必ず既定の時期、時間に実行されなければその目的が達成されないこと、即ち定期行為としての約束が明示にされたものともいいがたく、そもそも本件のようなコマーシャル放映においては」と、同八行目の「有している」を「通常有するものと推認しうる」と、同枚目裏六行目、九行目、一一行目及び同二一枚目表三行目の「行なう」をいずれも「行う」と改め、同六行目の「いずれ」から同九行目の「そして、」までを削除し、同枚目裏一〇行目の「谷証言」を「原審証人谷元博の証言」と、同二二枚目表一〇行目の「行なう」を「行う」と、同枚目裏八行目の「表現」を「表現の自由」と、同一〇行目の「頑くなな」を「控訴人の頑なな」と改める。

2  当審での控訴人の主張について

控訴人は、本件放送素材は、全体として見れば意見広告ではなく、商業広告に該当するものであり、本件テロップの「原発バイバイ」の部分だけを見ても、原子力発電の安全性には触れておらず、その不必要性を柔らかく、ささやかに表現しているものにすぎないから、放送基準に抵触しない、と主張する。しかしながら、原子力発電所の安全性・必要性の問題につき社会の意見が対立していることは弁論の全趣旨により認められるところ、「原発バイバイ」の表示は、その表現の仕方の硬軟は別として、現今の社会経済情勢下においては、明らかに原子力発電所の必要性を断定的に否定した表現と認めるべきであるから、本件テロップは全体として前記放送基準四六項及び九八項に抵触すると解するのが相当である。

また、控訴人は、本件テロップは、原子力発電の安全性・必要性を訴える多数の電力会社のコマーシャルと比較するとき、それよりも放送基準に抵触する可能性は低い、と主張する。たしかに、〈書証番号略〉によれば、被控訴人は四国電力依頼の「原子力発電は安全第一に取り組んでいます。」及び「明日を支えるエネルギー電子力発電」とのコマーシャル及びこれらに類したコマーシャルを放映していることが認められる。しかしながら、「原子力発電は安全第一に取り組んでいます。」とのコマーシャルは、原子力発電所の安全性を一方的かつ断定的に肯定した表現ではなく(なお、〈書証番号略〉によれば、被控訴人は、原子力発電所の安全性を断定的に肯定した「原子力発電は安全です。」との四国電力のコマーシャルを放映することを拒絶している。)、四国電力は原子力発電所の稼働について安全第一に、換言すれば、その安全性保持を企業の最重要課題として取り組んでいるとの企業姿勢を端的に表明したものにすぎず、また、「明日を支えるエネルギー原子力発電」とのコマーシャルは、原子力発電所の必要性を一般的かつ断定的に肯定した表現ではなく、四国の電力の四〇パーセントが原子力発電によりまかなわれているという既成の事実(同事実は、原審証人野口一臣の証言により認められる。)を踏まえた、将来の展望をいささか修辞的に表現したものと受け取れるから、いずれも、放送基準四六項及び九八項には抵触せず、控訴人の右主張は失当である。

さらに、控訴人は、被控訴人が本件テロップの放映を拒絶したのは、多額のコマーシャル料を支払う電力会社に配慮したためである、と主張するが、本件全証拠によるも同主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、前判示から明らかなとおり、被控訴人は、本件テロップの「原発バイバイ」の表示が放送基準四六項及び九八項に抵触すると判断したので、本件テロップの放映を拒絶したものと認められ、この点に関する控訴人の主張も失当である。

したがって、他に特段の主張立証のない本件においては、被控訴人の本件契約解除の意思表示が公序良俗に反するとは到底認められない。

二よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官砂山一郎 裁判官上野利隆 裁判官一志泰滋)

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